現 代 妖 精
異
聞
其の玖:改
ダメ元で出した俺のサンデー(改)は、意外な事に企画を通った。
来春にでも深夜枠で放映される…って、もう時間ねーぞ?
俺の出したラフスケッチの前に、作画担当と色彩担当のかろうじて手の空いてる奴らが集まってきた。
後輩がそれを見て、しみじみ呟くのが聞こえた。
「先輩の絵って可愛いですよねぇ…本人こんなイカついのに」
「うっせえ、こういう絵じゃねーと売れねえんだからしゃあねぇだろーが」
俺だって、本当はこんな身体構造全無視な魔法少女じゃなくって、もっと生身っぽい人間が描きたい。つうか俺の本領は油彩なんだよ。学校でアニメなんて習わなかったんだよ…
「服のこの部分、もうちょっとヒラヒラさせましょうよ!くるっと回った時中身見えるよーに!」
横から作画チームの一人が勝手に俺のサンデー(改)に描き込みだした。裾がちょっと広がっているだけだったスカートの裾が、あっという間にヒラヒラのフレアスカートに変わっていく。…ってか、中身って何だ。それも俺に描けと?
「いやいや、中身見せたら安直なお色気キャラになっちまうぜ?一応主人公なんだからそこは健全な感じにしとこうぜ」
すかさずもう一人がサンデー(改)のスカートの下を書き込みだす。
サンデー(改)のスカートの下は、ドロワーズ風のスパッツみたいなハーフパンツになった。
それを皮切りに、わらわらと皆がサンデー(改)に群がって好き勝手に書き込み始めた。
一応原作者?の俺は、そいつらの囲みから外されてしまい、その様子を傍観するだけだ。
まぁ、楽だからいいけど。
「このブーツ、もっと可愛くしましょうよ。羽とか良いんじゃないっスか?」
「あ、良いねぇ、飛べ!みたいなのにしよう!」
「このステッキの先、なんでこんなハタキみたいなンですか?」
「じゃあここもこうして――」
俺の描いてきたサンデー(改)は、どんどん原型を失っていく。もう、顔と緑色以外に俺の案の名残はない。
…まぁ、いいか。そう思って黙って見ていたら、ノリノリでサンデー(改)を更に改造しまくっていた後輩がこっちを見てきた。うわ、俺もアレに参加すんのかよ。
「そういや先輩、コレ名前どーすんですか?」
「あ~一応、サン、でー…?」
万が一、バレたら俺の身が危ないので、サンデー本人は家に置いてきた。けどアイツのことだから何があっても変じゃない。(聞き耳がドコまで立てられるか分かんねーし)俺は曖昧に言葉を濁した。後輩が聞き返す。
「サンディ?」
「あ、それでいいや、もう」
「何か投げやりっスねぇ」
「サンディかぁ…何かキャンディみたいだな!」
「じゃあキャンディにしましょう!魔女っ子キャンディ、とか?」
「あっははー何か売れなさそー!」
あぁ、みんな、つかれてるんだなあ。
名前まで、元の原型を失ってしまった。
すっかり変わり果てたサンデー(改)もとい、キャンディを見下ろして、コレ仕上げんの俺なんだよなぁ…と思うと、何となく空しくなってため息が出た。
でもやるよ俺プロだから。