其の漆:服

 

サンデーは、いつでも長袖を着ている。

光合成っぽい事してるクセに、その辺は季節感ゼロなんだよな。

真夏日にそう言ったら、我が装束を馬鹿にするなと殴られた。

 

 

 

流石に半袖はキツくなってきた9月も終わり。俺はサンデーの異変に気が付いた。

 

「…お前の服、黄ばんでねーか?」

「黄ばみでないわこの愚か者め」

「あだっ!…じゃあ何だよ、洗濯で色落ちでもしたか?」

 

こいつの服、洗った記憶ねーし、風呂にも入れた覚えねーんだけど。でもほのかにフローラルな香りがするんだよな、こいつ。……流石、妖精さんというトコロか。何かすごく嫌だけど。

ハタキを脳天に下ろされて、俺は思わず当たった場所に手を遣った。サンデーはふん、と偉そうに腕を組む。俺のが目線高いのに、何だ、この見下されてる感は。

 

「こうなる事は既に分かっていた――自然の摂理故、な…」

「あの、すんません。俺にも解るよーに言ってくれませんか?」

 

黄ばんだ所為かちょっと哀愁漂うサンデーは、俺の言葉に心底不愉快そうな、底冷えた視線を送ってきた。ワケ解らない事言ってる自分の事は、いつも通り、棚に上げる気満々だ。

 

「我も永遠ではないという事だ」

「…?!つまりそれって」

「漸く察したか。つまり、秋の次には冬が来るのだ」

「全っ然解んねぇよ…!」

 

何が言いてーんだこの妖精。一瞬、来た時と同じ様に突然いなくなるコイツが脳裏をよぎった。

レンジもテレビも壊れない生活。

サンデーがいない生活。

…俺の日常が帰って来る、と思ったのに。

 

「この装束も、長く使えばそれだけ磨耗するのだ。つまり、秋で、冬だ」

「要はそのヘンテコ服の話かよっ!!?なら我も、じゃあなくて我の服も、だろーがよぉお!」

「む…!下卑た言語を操る貴様に我の言葉を改められるなど!――あってはならぬ…!」

「あっちゃいけねえのかよ!しかもアレは突っ込みだ!」

 

ハタキがべしべしと降ってくる。俺は適当に避けつつ半分以上当たりながら、うっかり涙声で声を上げた。サンデーが何かを思い出したように動きをちょっと止めた。小首を傾げて虚空を見上げる――畜生、可愛いポーズ取ったって、俺は騙されねーからな。

サンデーは思い出したのかハタキを握り直した。

 

「貴様、我の装束が変とは何事か」

「思い出したのそれかよ!?あ、痛っ、やめて…!」

「我も突っ込みと言うものに目覚めてみたのだが」

「それ突っ込みじゃねーし、お前じゃ無り――ぎゃーっ!」

 

馬鹿な事繰り返してる俺たちの、夏が終わって秋が来る。そんで次は冬だ。