其の肆:名

 

電波さん。

自称妖精さん。

俺は色々勝手に呼んでいるが、こいつの本当の名前は何なんだ?

 

 

 

「我が名はサンデーだ」

 

自称妖精さんは、今更っぽい俺の質問に意外にもちゃんと答えてくれた。

 

「…サンデーって、それ本名か?」

 

誰だってそう思うよな?あからさまな偽名使ってくるとは、ただの電波さんじゃねーな、こいつ。

 

「かつて、我を見る事の出来た人間がそう呼んだのだ。我を指す言葉が我の名前なのであろう?ならば、我が名はサンデーだ」

 

自称妖精さんのサンデーは、何の疑問も持っちゃいないようだが、俺がこいつならまずその名付け親を一発殴るね。…ハタキじゃなくてグーで。

 

「サンデー以外の名前はねーのかよ?」

「無い」

「え、って事はよ、俺はお前の事その恥ずかしい名前で呼ばなきゃいけねーの?!」

「な…っ!我が名を愚弄する気か、貴様!」

 

俺の言葉にサンデーは激昂したらしく、ハタキを振り回した。

 

「痛いって!だってお前、自分の事我とか言って言葉遣い古臭ぇクセに何で名前だけそんな洋風なんだよ!お前の名付け親ドコの人だよ!?」

「遠く海の向こうから渡って来た南蛮人だ」

 

ハタキがまともに顔に当たって、思わず鼻を押さえて涙ぐんじまったが、俺は言い返してやった。そしたら返ってきたカウンターの方が強烈だった。…南蛮人、って今時使わねーだろ。

サンデーは懐かしい思い出を振り返るように、腕を組んで軽く目を伏せた。

 

「この国がまだ幾つかの勢力に分かれて覇権を争っておった頃に、その南蛮人が来たのだ。彼の母国の宗教を広めるのが目的と聞いた。珍しく我が見える人間であった故、暫く共に過ごしていた事もある。その時名前を付けて貰ったのだ。彼は洗礼、とか言っておったが要は名付けという意味の言葉であろう」

「……。なあ、この国が幾つかに分かれてたってのは、結構、前だよな…?」

「人間の時間の計り方は良く知らぬが、あれからこの国の変わり様を見る限り、そうであろうな」

 

歴史の教科書には戦国時代、とか書かれてる頃なはずだ。鉄砲とかがこの国に伝わった――みたいに記憶してる。

年表をイゴヨククル、で覚えたって事は…今から500年以上前の話。

俺の目の前にいる自称妖精な電波さんは、どう見ても十代後半から二十代半ばまでの年齢にしか見えない。とてもじゃねーが、俺より年上じゃない見た目をしている。

しかも、さっきからこいつ、自分の事を見える奴がどうのとか言ってたよな。俺のこと殴ったり、レンジやテレビをぶっ壊してるクセに、よく言うぜ。ばっちり存在してんじゃねえか。

 

こいつが見える奴は本当に珍しいのか、俺は試してみる事にした。

今日は打ち合わせ以外の予定が無い職場にこいつを連れて行けば、はっきりするだろう。