其の参:朝

 

彼女もいなくて家に引きこもってばかりの青年の家に、人外の美女だか美少女だかがやって来て、一方的にこちらに好意を寄せてくる――そういう類の話ならゴマンと知ってんのに。

確かに彼女はいないが引きこもってる訳じゃない俺の家にやって来たのは、自分を妖精と言い張ってて顔は結構可愛いけど、俺を殴ってくるばかりの凶暴な緑色だった。

 

 

 

この自称妖精さんが本当に妖精なのかはすぐに分からなかったけど、本当に機械オンチなのはすぐに分かった。

 

 

「日輪の力を得られぬ今は致し方ない。栄養を摂らねばならぬ」

「…要は腹減ったって事か」

「すぐに食事を用意致せ、我を待たせるな!」

「いってえ!だから何ですぐ殴んだよっ?」

 

確かに俺も腹が減った。そんで、すぐに出来る飯ったら…カップ麺か、冷凍食品か?朝から湯を沸かすのが面倒臭かった俺は、冷凍食品を漁る。いつの間にか自称妖精さんも冷凍庫を覗いてて、顔をしかめていた。

 

「何だ、これは。氷で出来ているのか?」

「あ?何だ冷凍庫知らねーの?」

「このように巨大な氷、一体何処で調達出来るというのだ…この家は貧相な割に、相当な力を持っていると見えるな」

 

自称妖精さんは、俺の話を全く聞いていなかった。しかも良く聞けばすっげえ失礼な事言ってやがるし。

レンジで温めてる間も、自称妖精さんはレンジの中でぐるぐる回る焼きお握りが気になって仕方ないらしく、ずっと中を覗いていた。その姿を微笑ましいと思う俺は、もうどっか変なんだろうな…。

 

「一体これは何のまじないだ…こんな事で凍った握り飯が食えるのか…?火など何処にも見えぬぞ…」

 

自称妖精さんがぶつぶつと呟いている間に、温め終わったレンジがピーッと音を立てた。一瞬びくっとした自称妖精さんは、またどっかから出したハタキを目にも留まらぬ速さで振って、レンジをぶっ叩いた。

ばちっ、と一瞬火花が散って、レンジから黒煙が上がった時点で、俺は何が起きたのかようやく理解した。

だって普通、ハタキで叩いたくれーでレンジがぶっ壊れるなんて思わないだろ?

 

「あ!テメッ!何やってんだよ!?」

「この箱がいきなり面妖な音を出したのだ、悪しき呪いに掛かる前に我が始末をつけただけの事」

「温め終了の合図じゃねーか!何だよその未開人の台詞はよお!ってか俺の夏のボーナスッ!」

 

色々使い道を楽しみにしていた俺の夏は、あっという間にレンジを買い直すことに決定した。その元凶は本気で何も分かっちゃいねーのか、首なんか傾げてやがる。

 

「茄子くらい、我が日輪の力で幾らでも実らせてやる故、そう嘆くでない」

「その茄子じゃねえ!」

 

こいつは自分で言うとおり、本当に妖精なのかもしれない…。

ニュースキャスターを取り出そうとまたハタキでテレビをぶっ叩いた自称妖精さんのお陰で、俺は電器屋にローンを組む羽目になった。