現代
妖精
異聞
其の弐:夢
ジャングルのような濃い緑色の、森の奥のような場所にいる夢を見た。
まるで鳥のように空から、地平線まで続く山や森を見下ろす夢も見た。
時代劇のセットのような、ただっ広い屋敷の中で黴臭ぇ本を読み漁る夢も見た。
どの夢にも、自分以外誰も傍にはいないのが、何だか寂しいなと思った時点で目が覚めた。
普段見ないくらいテンコ盛りな内容の夢の所為で、現状を把握すんのがちょっと遅れた。
隣でスヤスヤ平和な寝息立ててる緑色は、昨日の記憶が確かなら、無理やり俺の家に上がりこんできた電波さん。
俺はこの電波さんのために、わざわざ毛布出して床に寝床作ってやったのに、それは全く使われた形跡が無かった。ってことは、俺とこいつはずっと同じベッドで寝てた事になる。
「おい、アンタ、何で俺のベッドで寝てんだよっ?!」
「……む、朝か」
電波さんは俺の声に目を覚まして、何事も無かったように起き上がる。そして俺に断りもなしに窓を開けやがった。…ここ、俺の家だよな?
「?!何たる…っ!日輪が見えぬではないか!どうなっておるのだこの家は!」
「ってかテメエがどーなってんだよ。勝手に窓開けやがって」
元々、安物件のこの部屋は、窓は北東を向いてて朝日しか見えなかったのを、更にビルが真横に建っちまったせいで完全に日が当たらない。そのために窓は締め切ってたってーのによ。
ビルの壁に向かって文句を言っている電波さん。朝から元気だねーとか見ていたら、いきなり糸が切れたみたいに床に崩れ落ちた。何だ、ひときわ強い電波でも受信したか?窓を閉めがてら、俺はそいつの様子を見てみる事にした。てゆーか、動いてるときはあんまり近寄りたくねーんだよな…。
「おい、どしたんだよ?何受信したんだ?」
「――くっ、日輪の力が切れた。…おい、貴様何を愚図愚図しておるか。早く水を持って来い」
体に力が入っていないように床に座り込んでいるくせ、口だけは達者なんだよな。ニチリンのチカラって何だよ、とか思いながら、洗面器に水を汲んできてやるとまたどっかから出て来たハタキで頭を叩かれた。
「いだっ!持って来てやっただろ?!」
「この阿呆が。水を持てと言うからには、我が飲む水の事であろうが!この我を牛馬の如き扱いなどして、唯で済むと思うな!」
言いながらべしん、べしんと力強くハタキが振り下ろされる。何で出来てんのかさっぱり分からねーけど、当たると半端なく痛いんだよ、そのハタキ。渋々、コップに水を汲み直してやると、電波さんの機嫌も直った。こういう顔すると可愛いのに、行動も言動もちっとも可愛くねえ。
「…ふん、少々変わった杯なれど、我を敬う気持ちが起きたと言う事だな」
「何で俺がアンタを敬わなきゃいけねーんだよ。ってか、アンタ何なんだ?」
電波さんと会話するのはホントに疲れる。しかもそいつが言い放った言葉はもっとタチ悪かった。
「我は妖精だ。本来ならば然るべき場所に祀られても良い程、由緒ある神の眷属ぞ」
この自称妖精さんは、ただの電波より厄介なモンに取り憑かれちまってるようだった。