其の壱:序

 

小柄とは言え普通に人間大。

いつも緑色の服を着ていて、変なハタキを持っている。

生まれた時にはまだ恐竜もいなかったとか言っているが、確かめようも無い。

あ?何だそれ謎々?…って違う。

今、ウチにいる妖精さんの話。

 

 

 

そいつを拾った…っていうか、見つけたのは、いつも通る道の途中、バス亭のベンチ。

朝見かけたそいつは、この辺じゃ見ない顔だった。

まぁ、俺だってこの辺の奴ら全員知ってるわけじゃねえし、一々覚えたりしてるわけじゃねーけど、何かこう、引っ掛かるのはあったんだよな。何しろ全身緑色の服だぜ?どんなセンスだよ。

 

で。夜も遅く帰って来ると、とっくに最終バスも行っちまったバス亭に、まだいたりする訳だ。

これで気にすんな、ってのがおかしいだろ?

 

「よう、何待ってんだよ?」

 

気にしても声なんて普通掛けねーけど、そん時の俺はちょっと酒が入ってた。

 

「貴様…我が見えるのか?!」

 

どうやら、相手も酒が入ってるっぽいな。しかもかなり飲んでる?なんて考えたけど、俺を見上げたそいつの目は完全に素面だったね。だからこそ余計に俺は怖かったけど。

 

「あーもしかして、アンタあれか?遠くの星から電波貰ってるクチか?」

 

最近見なくなったと思ったら、しつこく生存してんのな、電波さんって奴。俺は声掛けちまった事を早速後悔しながら距離を取ろうと思ったが、いつの間にかそいつ、俺の服掴んでやがった。

 

「我が見えるならば好都合。…ふん、しかも独身で特定の女もおらぬか」

「余計なお世話だっつうの。てか、何で分かんだよ」

 

服の裾を掴むそいつの指は、華奢なクセに異様な握力で、引き剥がすのを諦めてると、聞き捨てならない事を言ってきた。

 

「ふん、貴様の胸の裡くらい読めぬ我と思うか」

「いや、それ、答えになってねーし…」

 

いやに自信満々な態度のそいつは、顔をぐいっと近付けて来た。息は…酒臭くは、なかった。そっちの方がタチ悪ぃなんて、その時はあるもんだとは思わなかったけど。

 

「貴様は黙って我を家まで案内すれば良い…さもなくば、災いが降り掛かろうぞ」

 

やけに低い声と冷たい目をしてんだけど、俺より背が低いせいで顔近づけるために精一杯背伸びしてんの。良く見りゃ結構可愛い顔してたし、何より俺はそん時酔っていた。

 

「わーったよ、で、家はドコだ?連れてってやっから、住所言えよ。な?」

「戯けた事を抜かすでない。我の家ではなく貴様の住居だ、連れて行くならばさっさとせぬか」

「あーなるほどね、俺の家か…って何でだよ?!」

「つべこべ、言うな。黙って従え」

「あ、痛っ!そのハタキどっから出した――ってそれで叩くな!」

「これ以上、痛い目に遭いたくなければ、我の言う事を素直に聞けば良いのだ」

 

ハタキでぺしぺし叩かれながら、俺はそいつを何故か家まで連れ帰る羽目になった。