ラインバック船長の後悔日誌

 

 

 

宝を追い求めて東西南北を自慢の船で駆け抜けてきた、このラインバック様もついに年貢の納め時っつうか、なんて言うのかな、ヤキが回っちまったのかと思う今日この頃だ。

海王の神殿を探索途中、この俺様としたことが‘ついうっかり’足を挫き、緑色の変な小僧(リンクとか言ったか?)に‘助けさせてやった’ところからどうも調子が狂う一方だ。

 

 

 

本来の俺様は海賊――ほど下品ではないが、お宝を追い求めてわざわざこの海域にまでやって来たのだ。

リンクとか言う緑小僧の友達を助けるのがお宝への近道なのではないか、と思わないでもないが、それはあくまで俺にとっては寄り道。ついで。片手間の仕事だ。

リンクが友達の手がかりを追うのに俺の船を使うのも、この俺様以外に化け物がうようよするこの海域に船を漕ぎ出そうっていう勇気ある船乗りがいなかったわけで(それで海に出てみると結構船の姿を見たけれども)、これも何というかまぁ、正に乗りかかった船というやつだ。この近辺の島々に海王の神殿の謎を解く鍵があり、その謎を解くことが、俺様にとってはお宝、リンクにとっては友達という目的になるのだから。そんな友達想いのリンクにお宝探しの醍醐味とも言える謎を解かせてやるなんて、この俺様の海より広い度量にもっと感謝すべきだと常々思う。

(口煩ぇ精霊は生意気にもこの俺様を『怖がり』だの『腰抜け』だのとぬかしやがるが、オトコの友情ってヤツが分からんのかね)

 

 

 

で、だ。

長々くっちゃべっちまったが、実はここからが本題だ。

主にこの俺様の活躍によって海王の神殿の謎解きを阻む最大の障害――ファントムとか言う不死身の化け物だ――を倒し更にその親玉で今回のすべての元凶とも言えるベラムーって野郎に対抗できる伝説の武器を手に入れたわけだ。

それを持って意気揚々と神殿に乗り込むリンクを俺様は船着き場で見送った。まぁここまではいつも通り。

小煩い精霊もいなけりゃ辺りは静かだ。カモメの声だの、波の打ち寄せる音だなんてのは、船乗りには無いにも等しい訳だ。

一度神殿に潜っちまったリンクは中々帰ってきやしない。

となると間抜けに船着き場でぼんやり突っ立ってんのもマヌケってもんだろ?

幸い、この島には小さいながらも酒場がある。

俺様は船を見ている島の若者に、リンクが戻ったら知らせるように言ってその酒場に向かったわけだ。

 

 

 

 

異変が起きたのはリンクが戻ってからだ。

 

 

 

 

リンクが帰ってきたと聞いたから、俺様は船に戻った。

流石に酔い潰れてちゃ、船の操縦なんか出来ないからな。だから‘すこーしだけ’飲んだだけだ。ベロンベロンになるほどやっちゃあいねえ。

でもな、そん時だけは、俺は飲み過ぎたかと我が目を疑ったぜ。

 

 

俺様の船が、ちょっと目を離した間に黄金の船に変わっていたなんてよ。

 

 

甲板の上でリンクの緑帽子がぴょこぴょこ跳ねていやがったからやっと分かったようなもんだ。

俺様も慌てて船に乗り込んだぜ。

リンクは、大体いっつも幸せそうな顔してんだが、今回もまぁ大差ないくらいの顔をしていた。

当然、問い詰めたね。何でだって俺様の船が目も眩むような黄金に包まれちまったのか。リンクだったら知っているだろうと思ったわけだ。それは間違っちゃいなかった。

 

何でも、各フロアのファントムを全て倒すと、その度に‘おたから’が出現するらしい。

‘おたから’っても、ウロコだの羽だの、ガラクタみてぇなもんだ。たまーに、値打ちモンもあるみたいなんだが、俺に言わせりゃお宝と言えば金銀財宝の類を言うんだ。そこだけは価値観の違いってヤツに感謝しないとな。

それで、ある階からは出現する‘おたから’の種類が船のパーツになるのだそうだ。

リンクが言うには、今俺たちが乗っている黄金の船のパーツは全て、その神殿のファントムを倒したら出てきた。と、そういうことだ。

 

そこまではいい。

問題はその次だ。

 

出てきたパーツを、リンクは造船所の親父に持ち込んで俺様の船をこーんな金ピカに仕上げちまった。と。

 

もう一度言うぞ。

 

 

この、ラインバック様の、ラインバック号を、だ。

 

 

この船の船長として、いやさ持ち主として俺は厳格に命じたね。

黙って改造したことにはこの際目を瞑ろう。

だが、こんな走るお宝みたいな船でお前はドコに向かうつもりなのか。海賊どもに襲われたいのかと。

嫌なら直せ。どうせならとびきりおっかねえ船にでもして近づきにくくすりゃあいい。

 

どこが厳格か?

厳しさの中に優しさをにじませるこの俺様の気遣いってヤツだ。

リンクも納得したらしく、別な設計図持って造船所に向かっていった。

 

やがて造船所の親父と作業所の若い奴らが数人やって来て、リンクと打ち合わせしながら船のパーツを取り替え始めた。

奴らの会話を聞くともなしに耳に入れると、何だか不穏な単語がちらちらと聞こえる。

 

 

地獄のスープだとか

鬼の面をどうだとか

囚人がどうだとか

 

 

…おいリンク。

お前はこの俺様の船をどういう方向にプロデュースする気だ?

 

しかもリンクは黄金の船を設計したときよりも嬉しそうにしていやがる。

ポシードンを釣った時でさえそんなに嬉しそうに跳ねてなかったよなぁ?

 

 

 

 

 

 

これから先。俺様はこの地獄から引き上げたようなおっかない船の船長として、航海の旅を続けなけりゃならないわけだ。

こんなことならまだ、黄金の船の方がまだマシだったかも知れねぇな。

 

だから今日からこの船の日誌のタイトルが、『航海日誌』ではなく『後悔日誌』なワケだ。

 

 

 

 

…なーんてこともなく、俺はすかさずリンクを一発小突いて、黄金でもなけりゃ地獄の船でもない、フツーの船に戻させた。

 

よく言うだろ?

 

「何だかんだで普通が一番」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼルダ結構面白かったよ記念。

好き勝手に船のパーツを弄るリンクを、持ち主たるラインバックはどう思っていたのか。

そんな事をふと思い付いたのがこの話。

 

2009/04