早朝の大阪城。

 

連日のように戦が続いていたが、先日にようやく休戦と相成った。しかしまだ完全に戦は終わったわけではない。平時ならば長閑な空気が漂う大阪城にも、拭いきれない緊張感が残っている。

和睦にせよ再戦にせよ、次の一手の準備のために多忙を極める冶武少輔・石田三成は、徹夜明けの頭をすっきりさせるために、城内の視察と称して息抜きに出かける事にした。

とはいえ、この早朝に行く当てがあるわけではない。見張りを除けば誰かが起きている気配も無い。本当にぶらりとそこらを見て回って、大人しく執務室へ戻るつもりであった。

 

渡り廊下を歩いていた時、庭からべーん…と三味線の音が聞こえるまでは。

 

三成は、廊下の手すりを越えて、庭に出た。

蒼い髪をした変な格好の男が、庭の隅に置いてある岩に腰掛けて、抱えた三味線の音を出していた。特に何かの曲を奏でているわけではなく、調弦を行っているようだ。

何もこんな時間に、こんな場所でやらずとも良いのに。

一言くらい、何か言ってやらねば気が済まないような気になり、三成は男に近付く。

 

「長曾我部…何をしているのだ」

「調弦だ」

「何故このような場所で。しかもこんな朝早くに。近所迷惑だろうが」

 

もう少し、柔らかい言い方もあるだろうに。内心では分っていても、つい口から出るのは他人を傷つけるような鋭い言葉だ。しかし長曾我部元親は、抱えていた三味線を体から少し離した。

 

「昼に戦があれば、朝しか調弦をする暇が無い。それにこの付近は人が少ない」

「戦は起こらぬ…少なくとも今日は。それに、人が少ないというのは理由にならん」

 

傍に迷惑する人間さえいなければ、何をやっても許されるようでは、秩序など無いに等しい。

 

そう言い掛けて、三成は別の言葉を選んだ。

 

「…自重しろ」

「ああ、そうしよう」

 

大人しく従った元親は、ふと動きを止めた。

空を見上げ――薄青の晴れた朝の空(今日は晴れる)の、ある一点を注視する。

突然動かなくなった元親の様子があまりに変なので、三成は思わず声を掛けた。

 

「どうした」

 

元親に動きが戻る。しかしどこか寝起きのような表情で、呟いた。

 

「今、声を失くした言葉を聞いた」

「はあ?」

 

聞き返す三成に構わず、元親の呟きは続く。

 

「石田、三成」

「何だ」

 

いきなり名前を呼ばれて、三成は取り敢えず返事をした。

元親は、厳か、とも言える口調で重々しくもはっきりと告げる。

 

 

「貴様は永遠に片恋だ」

 

 

「………。」

 

爆破してやろうか、こいつ。

 

R1+△ボタンを発動させるか迷ったが、最期の弁明だけでも聞こうと、「何の話だ」とだけ返した。元親は、それに対してあまり答にならない言葉を返す。

 

「気になる相手に気持ちが中々伝わらなくて、無理に押し通せばすれ違う危険性も。焦らないで相手の気がこちらに向くのを待とう。ラッキーカラーは赤。ラッキーアイテムは鉢巻……」

「ちょっと待て」

 

続くラッキープレイスを言い掛けた元親は、夢から覚めたように瞬きを繰り返した。

 

「…俺は、今、何を?」

「いやそれはむしろ俺の台詞だ。貴様、今、何を喋っていた」

「声無き言葉を聞いただけだ…しかし今回はわりかしはっきりと聞こえたな」

「普段から聞こえているのか…?」

 

思わぬところに受信装置がいたものだ。三成がその処置に窮していると、元親が腰を上げる。

対面すると、結構背が高い事に気が付いた(見下ろされる感じがムカつく)。

じっと黙って見つめ合う事数秒。元親は哀れむ様な眼差しを三成に向けた。

 

「…その、何だ――時代を意志すれば多分、大丈夫だ。たとえ待ち受ける運命が凄絶な結果だとしても」

「うっとおしいなぁ!」

 

三成はR1+△ボタンの後、元親の足元に仕掛けた罠を凄絶に爆破させた。

 

 

 

 

 

月曜日の朝は、そうして始まりを迎えた。